第2節 遺言内容の決定

1.遺言事項

①遺言事項法定主義
 法律上、遺言としての効力が認められるのは、民法やその他法律で定められている事項に限られる。遺言事項を限定する趣旨は、遺言が遺言者の最終意思によって成立する相手方のいない単独行為であるため、遺言事項を法定することによって遺言の明確性を確保し、後日の紛争を予防することにある。
 もっとも遺言書の中には法定遺言事項以外の事柄が記載される例が多い。
例)
・付言事項として相続人に対し遺留分を行使しない旨の希望
・遺言者の死後の葬儀、埋葬の方法などについての記載
など。
 これらの記載は事実上の効果は別としても、遺言によって法的効果が認められるものではない。

②遺言事項の分類
民法はじめ法は遺言事項をいくつか規定している。
遺言事項について大まかに分類すればⅰ身分上の事項に関する事項ⅱ相続法規の修正に関する事項ⅲ財産処分に関する事項ⅳ遺言の執行に関する事項ⅴその他の遺言事項に分けることができる。

ⅰ身分上の事項に関する事項
・認知
・未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定

ⅱ相続法規の修正に関する事項
・推定相続人の廃除および取り消し
・相続分の指定および指定の委託
・遺産分割方法の指定および指定の委託
・特別受益の持戻しの免除
・相続人相互の担保責任の指定
・遺留分減殺方法の指定

ⅲ財産処分に関する事項
・遺贈
・「相続させる」旨の遺言
・一般財団法人設立のための定款作成
・信託法上の信託の設定

ⅳ遺言の執行に関する事項
・遺言執行者の指定および指定の委託

ⅴその他の遺言事項
・祭祀主宰者の指定
・生命保険金受取人の変更 など

遺言事項には、A)遺言者が生前にもできる事項または遺言でしかなしえない事項、B)遺言執行が必要とされる事項または執行を要さない事項、C)遺言執行者の選任が必要的な事項又は任意的な事項がある。

2.実務上の留意すべき遺言事項

(1)「相続させる」旨の遺言

①「相続させる」旨の遺言の存在理由
 特定の相続人に対し特定の財産を承継させる場合、わが国の公正証書遺言の実務において、遺贈ではなく、「相続させる」旨の遺言が作成されてきた。これは、遺贈の方法によれば、所有権移転登記手続において、他の共同相続と共同して登記の申請手続を行わなければならず、また、登記手続に要する登録免許税も相続登記に比し高額となるため、公証人の工夫により生まれた遺言の記載方法であった。

 最判平3.4.19判事1384-24が遺産分割効果説を採用し、「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法を定めた遺言であるが、何らかの行為を要せず、被相続人の死亡の時にさかのぼって直ちに当該遺産がその相続人に相続によって承継されると判示し、論争に終止符を打った。以後、実務では、平成3年最高裁判所例以後、「相続させる」旨の遺言についていくつかの最高裁判例の集積をみるに至っている。

②「相続させる」旨の遺言と遺贈の相違点

両者には以下の具体的相違がある。

《登記申請手続》
遺贈の場合は、共同相続人との共同申請であり、遺言執行者が選任されていなければ、共同相続人全員の協力が必要となるが、「相続させる」旨の遺言によれば、受益相続人の単独申請で足りる。(不登60条、63条2項)

《登録免許税》
平成15年4月1日の登録免許税法の改正により、法定相続人に対する遺贈と相続人による相続登記は同一の税額が適用されることとなり、両者の違いはない。課税標準の1000分の4の登録免許税がかかる。

《農地法3条の許可》
農地の遺贈の場合は農地法3条の農業委員会または知事の許可が必要であるが、「相続させる」旨の遺言は許可が不要である。(農地3条1項12号)

《賃貸人の承諾》
借地権や借家権の遺贈の場合には、賃貸人の承諾が必要であるが(民612条)、「相続させる」旨の遺言は承諾は不要である。

《第三者対抗要件の有無》
不動産の遺贈の場合は、その物権変動を第三者に対抗するためには登記が必要である。これに対し、「相続させる」旨の遺言は、特段の事情のない限り、被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に承継されるのであり、第三者に対し、登記なくして対抗できる(最判平14.6.10判時1791-59)

《所有権移転登記手続における遺言執行者の要否》
遺贈の場合は、遺言執行者が選任されれば、遺言執行者が共同相続人に代わって所有権移転登記手続を行うことができる。これに対し、「相続させる」旨の遺言は、被相続人の死亡と同時に、特定の遺産が特定の相続人に相続により承継され、その者が単独で所有権移転登記を申請できるので遺言執行の余地がない(最判平7.1.24判時1523-81)

《代襲相続の有無》
遺贈の場合は、受遺者が遺言者の死亡以前に亡くなった場合は遺言の効果力が生じない。では「相続させる」旨の遺言について、代襲相続の規定を準用できるかについて争いがある。最判平23.2.22判時2108-52は、「「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の物に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効果を生ずることはないと解するのが相当である。」と判事して否定説をとるに至った。したがって、遺言書を作成するにあたっては、受益相続人の死亡に備えて予備的に代襲相続人に相続させる旨を記載しておく必要がある。

書式・予備的に「相続させる」旨の遺言
第〇条 遺言者は、遺言者が所有する次の不動産を遺言者の長男甲野一郎に相続させる。
 不動産の表示(略)
第〇条 万一、遺言者より前にまたは遺言者と同時に長男甲野一郎が死亡していたときは、遺言者は、前条記載の財産を遺言者の孫甲野健太(長崎県長崎市〇〇町〇丁目△番△号、平成〇年〇月〇日生)に相続させる。